ひとりでも続ける
伝わらなくても伝え続ける

相談役 鍵山 秀三郎

新型コロナについては嘆いたってしようがないですね。それを受け入れ、そのうえでいま何ができるのかと、考え方を変えていかなければなりませんね。それは、少人数であっても不定期であっても、何でもいいからこまめにやって頂くということだと思います。

京都の新洗組は、最初はいろんな制約や困難がありましたが、コツコツやっているうちに、周囲が逆に協力してくれるようになったんです。そこまで行くことです。周囲の認識が、そこまでなるところまでやることです。東広島市の上野和浩さんが、「夢ひろい」といって、3人で街頭清掃を始めたんですね。それがどんどん大きくなって、70人とか80人、しかもそれが方々に飛び火していったんです。

学校のトイレ掃除が断られても、「あっそうですか」といって、ぽんと止めちゃわないで、「それじゃあ周辺をやらして下さい」とかね、止めないことです。止めちゃったらそれでお終いです。できるところからやっていく、3人でも5人でもコツコツやっていると、周りも「何やってるんですか」と言って、そのうち一緒にやるようになるとか…。

伝わらなくても伝え続ける

今、趣味も生きがいもなく生きている高齢者はたくさんいます。そういう人たちは、この掃除の活

動を知らないですね。そういう人たちが知るきっかけを作ってほしいんです。「冬の寒いときに朝5時? 1回だけ行ってみるか」と。行ってやってみると、「来てよかった、楽しかった、次はいつですか」というふうになると良いですね。「夢ひろい」もそうだったんです。そういったきっかけをどう作っていくか、いろんな方法があると思います。

以前やっていたけど今はやっていない人とか、現職中に掃除をしていたOB先生に「地域で2人でも3人でも掃除を始めませんか」と呼び掛けてほしいですね。そんなグループを方々に作ると、力になるんです。

GLAの高橋佳子先生が言われました。「私は、皆さんに自分の思いを伝えているけれども、伝わらない。届けようと思って届けるけれども届かない。だけど、私は伝え続けていきます」大したものだなあと思いました。伝えても伝わらない、たとえ届かなくても届け続けていく…私たちの活動を分かってくれる人はそう多くいないです。でもそれを伝え続けるということ、これをお願いしたいです。

掃除をする先生方にアドバイスを

掃除をする先生方は、他人や同僚から中傷を受けたり、校長や教頭から大反対されたりですね、いろんな困難を乗り越えてやってこられていると思います。そういう先生方には、「何かあれば、道具でも何でもお手伝いしますよ」と、掃除の会がいつも門を開いて、必要とされるときにお手伝いをさせて頂くということが良いと思います。

今の学校教育は、人間のあるべき教育とは違ってきている気がしますが

日本の教育がこうなった原因は、学校だけの責任ではありませんね。企業や社会がそういう人を求めたから、学校は求められた教育をしているんです。世の中全体が、能率効率主体できて、それに対応できる人材を求めたわけですね。社会の在り方から変えていかないと、これは直らないですね。学校や文科省に何やってんだと言ったって、変わらないです。

「相談役ほど本を読んでいる人はいない」ともお聞きしますが

今は本も読めなくなりましたが、若いころは寝る時間を削ってでも本を読みましたね。塩野七生の『ローマ人の物語』などの歴史書を読みました。日本人には、中東とかバルカン半島のあたりは分かりにくいんですね。私は読んでて、地図を広げて調べました。だからいまテレビで出ても、ほとんどよく分かります。それは本を読んだおかげです。行ったことのないところのことも分かる、会ったことのない人のことも分かる、何千年も昔のことをさかのぼって知ることができる。これらはみな読書のおかげです。読書についてはいいことばっかりで、悪いことは一つもないんです。

美しくする会本部のあり方について、意見も出てきているようです

文科省は、教育に一番近くなければいけないですね。ところが、学校現場からすると一番遠い、これがいけないですね。森信三先生は昭和28年、「教育の五毒」を挙げました。その一番が文部省、当時の文部省の存在は大きいですよ。2番目が日教組、あの当時日教組全盛ですよ。ところが堂々と、2番目が日教組だと言われた。そして3番目が学者。4番目がマスコミ。5番目がやる気のない先生です。

文科省は、教育現場に対して一番近い存在でなければいけない。それと同じで、日本を美しくする会では、本部はいつも地方の現場に近いということが大事です。

後継者不足などの事情で休会状態の会もあるようですが

私は本当に気にしていました。どうかなあと思うと、手紙を書いたり、電話をしたり、出張の時に遠回りして寄って食事をしたりしました。すると、皆さんそれぞれ悩みを抱えているんです。誠実な人こそ悩みがあるんですよ。そういうときに「それはそうですね。ただ、たとえ1人になっても2人になっても止めないでくださいね。止めなければ必ず元のように戻ってきます。止めたらお終いですよ」と、言ってきました。

今活動している人も、歳をとっていきます。私だって、自分が今こんな体になるなんて思ってもみませんでした。ですから、掃除をするだけではなくて、ぜひ次の世代に呼びかけをして頂きたいですね。

最後に

いまとても感謝していることがあります。歴史上掃除が大切だと言った人はたくさんいます。道元禅師は、「掃除に始まって掃除に終わる」というくらい掃除を大事にしていました。近代では福沢諭吉。慶應義塾の最初のころの塾生は、掃除ばかりさせられたそうです。塾生の掃除をした後を見て、「まだだ」とやり直しをさせたということです。だけど、掃除を社会運動にまですることはできませんでした。

社会運動にまでしたのは、日本を美しくする会が初めてなんです。しかもヨーロッパにまで広がっている。このともし火を、今日まで消さずにやってきて頂いたことに対して、本当に感謝しております。