京都掃除に学ぶ会 山本 保弘
京都新洗組は、京都掃除に学ぶ会の一つとして、2008年(平成20)に発足し、京都一の繁華街・木屋町通の清掃活動を行っています。毎週土曜日(除第2土)朝6時に旧立誠小学校跡地前に集合し、地元の方と老若男女、楽しくお掃除をしています。立ち上げに関わった山本保弘氏に新洗組の魅力を聞きました。
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新洗組はどのようにして生まれたのですか
かねてより鍵山掃除道を、トイレ掃除だけで語ると誤解が生まれると感じていました。トイレに限らず、その場をとことんお掃除することによってその場の氣が変わります。凛として背筋が伸びる場、心素直に優しい気持ちになれる場、良い氣が流れる場、そんな掃除こそが真骨頂と感じていました。京都で全国大会をしてほしいというお話が来た時、是非とも街頭清掃を入れたいと思いました。
私は、「荒れていた木屋町界隈を若者の手で掃除をしたい。いつの時代も世の中を変えていくのは『若者、よそ者、バカ者』だ」と思っていました。そんな想いにすぐさま賛同してくださったのは、戸田紳司さん。そして、当時佛教大学の学生で初代隊長・大田明光さん、大会実行委員長・加藤陽一さんを中心に、全国大会の成功祈願として、半年間毎朝木屋町の掃除をしました。その後、大会世話人の想いを乗せて、新洗組は始まります。
新洗組で大切にしていることは何ですか
相田みつをさんの文章にあります。お坊さんが霧の中を歩いていると、知らぬ間に仏の教えという霧が衣をしっぽりと濡らすという「霧衣」。理想の教えとはこういうものだと書いてありました。私たち世話人が、どのようにして若者たちに掃除道を伝えていけるのか。そのヒントがここにあると思いました。
具体的には、
①開始を朝6時とする。その時間帯に夜が明けます。若者はその時間に来るだけで一〇〇点。
②若者たちに運営を任せる。口出しはせず、道具とお金は惜しみなく出す。新洗組は未来への種まきです。
③掃除のうんちくを語らない。後ろ姿で教える。支える大人は、後ろ姿を磨いて、魅力的な存在になる。これらをルール化せず、大切にやってきました。
新洗組を支えてきた人たちを教えてください
麻野博司さんは、地元の元PTA会長。近場だからと5時過ぎに倉庫に来て道具を準備。戸田さんは一番汚い場所に率先突撃。坂本孝子さんは、寒い冬、ポリタンクにお湯を入れバイクで運搬。前田佳織さんは、若者たちの目覚まし電話にお迎え…。
看護師の大西由香さんは、体調管理班。こわもての加藤陽一さんや私や学校の先生は、見守り警備兼任掃除。美味しいサバ寿司を作って来てくださる福井三千子さん。引きこもり支援の藤尾まさよさんや田中さん。数え上げればきりがありません。
新洗組は、母親の愛と父親の厳しさ、母の涙とおやじギャグで運営されてきました。
京都府警の特別警察小隊長さんが、就任ごとにご挨拶に来てくださいます。毎晩、嫌になるような事件の数々の中、夜明けに私たちを見つけると天使に見えます、と。「私たちは法規でもって日本を守っています。しかし、皆さんは、ほうきを持って木屋町を守って下さっています。ありがとうございます」 目に涙を浮かべて笑い合います。
鍵山相談役の教えで大切にしていることはありますか。
「たらいの水の教え」があります。大きなたらいで、みんなで洗濯をしていた時代、相手にどうぞどうぞと自分の泡を送ります。一見、手元から無くなり損したように見えますが、回りまわって自分に帰ってくるというお話です。こんなことがありました。
①車を停めていた正面橋が、耐震検査で危険と判断されました。注意される前に、有料駐車場に移動しようとしました。すると、キャピタル東洋亭の高橋克彰さんが、無償で駐車場を使って下さいと申し出られました。
②不法駐輪撲滅として旧立誠小学校内に駐輪場が出来ました。すぐに移動しました。すると、自治連合会長の諸井誠一さんが新洗組さんは無料にしますと。
地元の方にも新洗組の活動が認知されていると聞きました。
6年を過ぎた頃、諸井さんが来られました。若者たちの活動に感動し、毎回参加してくださるようになりました。冬は寒いだろうと、小学校の会議室を使わせて頂きました。暖かい部屋、トイレ、お湯が使える。新洗組の活動が地元に認めて頂いたことに感動しました。
そして、地域の桜祭り(写真)のイベントの一つとして、新洗組に高瀬舟を曳いてもらいたいとの相談がありました。歴史ある高瀬川・高瀬舟を保存する取り組みです。私たちは、「はい、喜んで!」と多くの学生たちと参加し、新しい出逢いもたくさんありました。桜の舞い散る高瀬川。忘れられない青春の思い出です。
元立誠小学校は、2020年(令和2)ホテルになり、自治会のスペースが併設されました。その倉庫に新洗組のお掃除道具も置いてください、と言っていただきました。とてもありがたいです。
学生の送別会は特別な会だと聞きました
私たちは「出発式」と呼びます。手作りの会場。思い出、未来への夢、志を宣言して、多くの学生たちが、社会へ旅立ちました。毎年、胸がキュンとなる寂しくも嬉しい行事です。
社会の荒波に負けるな! 私たちは、ありのままのあなたたちをいつも応援しているよ。私たちはいつまでも木屋町で掃除をしている。もし、くじけそうになったり、悲しい事があったりしたら、いつでも帰ってきたらいい。笑顔と元気をいっぱい充電しに、いつでも来たらいいから。そして 日本をよろしく頼みまっせ~と。今春、五代目隊長の影山優作君が出発します。
最後に、新洗組を卒業した仲間の活躍について教えて下さい
はい。地元や就職先で自分の新洗組を立ち上げ、活動を続けています。福盛晶子さんは博多新洗組。澤田樹君は姫路新洗組。永目憲一郎君は名古屋新洗組。吉野将史君は渋谷新洗組を作って、次の世代にバトンをつないでくださっています。時政和輝君は、卒業後も京都に残って、京都掃除に学ぶ会の代表をやっています。会の若返りをやってくれるのではないかと期待しています。
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最後に、時政和輝さんからのメッセージを紹介します。
「京都新洗組はどんな人も温かく受け容れ応援してくれる、心の故郷のようなところです。新洗組のぬくもりは、人の心を温め、地域を温め、そして町を少しずつきれいにしていきます。現在はコロナ禍の影響で、積極的な活動はできません。また、これからも様々な困難があるでしょう。しかし、私たち以前にお掃除を続けてくれた人たちがいること、雨の日も嵐の日も、例外なく続けてくれた人たちがいたからこそ、お掃除ができていることに感謝し、私たちも出来る範囲で継続していきたいと思います。比叡山延暦寺にある不滅の法灯のように、新洗組の火を消してしまわないよう、お掃除を続けていきます」