東京掃除に学ぶ会 千種 敏夫
世界有数の歓楽街、新宿歌舞伎町は、1990年代までは風俗店や暴力団などの黒社会により、極端に汚く危険で、一般人が気楽に歩ける街ではありませんでした。石原慎太郎東京都知事は、「日本の首都として国際的に恥ずかしい」として、2003年(平成15)春、広島県警本部長であった竹花豊氏を治安担当副知事に招聘し、歌舞伎町の治安回復に着手、竹花氏は「歌舞伎町浄化作戦」の総指揮を執ったのです。
*
竹花豊氏の東京都副知事就任
広島で暴走族の取締りに、トイレ掃除などを行って成果を上げた竹花氏(「清風掃々」第35号)。同年7月1日、神奈川掃除に学ぶ会の丸山正信代表世話人が中心となり、氏の副知事就任のお祝いとして、都庁周辺の早朝掃除を始めました。月に一度、東京、神奈川中心の50~60名によるこの掃除は、東京の街頭清掃の始まりでした。それを知った竹花副知事から、「自分は東京の治安をよくするために来ました。できれば歌舞伎町の浄化を手伝って頂けませんか」と、掃除の会に要請があったのです。
あの歌舞伎町です。掃除の会としても、相応の体制を作る必要がありました。東京に5か所(城東、城北、城南、多摩、三鷹)あった掃除に学ぶ会を「東京掃除に学ぶ会」に一本化、力を結集し、その責任者を私千種が担うことになりました。私と日本を美しくする会事務局の新上政広氏は、早朝事前下見を3回行いました。驚くようなゴミの量と荒れようでした。鍵山相談役の指導のもと、新宿区や新宿警察と打合せを重ね、歌舞伎町商店街振興組合の理事とのご縁もでき、そして当日を迎えました。
2004年(平成16)1月15日開始
遠くは与論島から、全国の掃除仲間が200名以上集まりました。十数人ごとの班に分かれ、各班の周りを制服、私服警官が守る物々しい掃除で、たむろしていた人はコソコソとビルに入っていくような異様な活動でした。
街頭清掃に初めて参加した人々には、鍵山相談役の実践指導や周辺・参加者への気配りは、新鮮で教えられることが多く、うれしくも真剣に学んでいました。これをベースにして、回を重ねるごとに工夫を加え、必要な道具を揃え、現在の「新宿・渋谷街頭清掃」に至っています。
その年、新宿区議の紹介で駅西口街頭清掃を、さらに東口商店街振興組合理事長とのご縁を得、結局歌舞伎町と東口と西口の3ヶ所を、月ごとにローテーションするようになりました。参加者は毎回130~150名でした。
すると、新宿区役所が立ち上がりました。毎週水曜日に街頭清掃を行うようになり、同年12月、第1回「新宿クリーン大作戦」と銘打った掃除大会を1500人で開催したのです。これはその後も続き、毎年年末に多くの人が参加し、現在は3千~4千人が集まる大掃除大会となっています。
竹花氏の「歌舞伎町浄化作戦」などとの総合的な取り組みの結果、新宿の街は目に見えて景観が変わっていき、それに伴って治安が劇的に良くなっていきました。竹花さんによると「掃除が一つの大きな核となった」といわれます。これについては最後に述べます。
実は、新宿東口商店街の理事長は、当初「ウサン臭い集団」だと思っていたようですが、のちにNHKEテレ「こころの時代」で鍵山相談役のことを知り、また徹底した掃除とその継続を見て、「これは本物だ」と驚いたそうです。相談役の「こちらからお願いは何もせず活動してください」との助言で続けた結果、理事長も私たちを信頼されるようになり、今では「何でも言ってください」と仰っております。
2016年(平成28)新宿区長から、2018年(平成30)には新宿東口商店街振興組合理事長から、私たちの活動に対する感謝状をいただきました。
渋谷への波及
2009年(平成21)年、渋谷道玄坂商店街振興組合から、街頭清掃をしてくれないかとの申し出がありました。地元協力者のいない新宿駅西口はやめ、歌舞伎町と新宿東口と渋谷の3か所をローテーションすることにしました。
6年くらい経って、渋谷は路上駐車禁止の厳格化からやむなく撤退したのですが、しかしその後2年も経たないうちに、渋谷区、渋谷警察、渋谷道玄坂商店街振興組合の皆さんが協同して動いてくださり、道玄坂の民間駐車場に無料駐車の許可を頂けることになり、活動を再開しました。渋谷区からは、「渋谷区」の名義使用許可申請を助言されましたが、行政や地元の協力があると、活動は大きく進みます。
参加者や関係者への感謝
開催は230回を数え、このコロナ過では状況を見つつ、予防対策を徹底しながら行っています。
参加者
120~130名ですが、何もしなければ減ります。配信される案内書を、世話人がSNSで拡散したり、別の活動のときに新たな仲間と縁をつくって、人を集めてくれています。
閉会式では、初参加の方に感想発表をお願いします。「気持ちよかった」「徹底した掃除には驚き勉強になった」「これからはごみを捨てず、拾う側になります」など、さまざまな気づきを話してくれます。
そして、ベテランさんらは初参加者をモーニングに誘ってフォローしてくれています。社会貢献活動を求める若者が多い現在、この働きかけにより、リピーターとなったり、あとに繋がる関係を作っていただけることは、実にありがたいことです。
掃除道具
必要な道具や備品を揃えてきました。シオガイグループさんがこれらを保管管理し、毎回必要数を準備し、開催場所へ運搬して頂いています。社員さんも参加して、ゴミの分別を担当して頂いています。これらの掃除道具は、年に一回世話人でメンテナンスして、大事に使っています。
ゴミ回収
区役所の方が早朝、遠方通勤の方は前泊もして収集に来てくれます。新宿では当初、2トン車2台分近いゴミがあり、みなその量に驚きました。しかし今は、2トン車に半分くらいです。私たちはこれを見ると感無量の感がします。ところが、初参加者にはこれは驚きの量のようです。
参加者、世話人、道具管理、行政、地元商店街など、多くの皆様に深く感謝しております。
波及効果二件
(1)犯罪の激減
新宿警察署管内の犯罪件数は、大きく減少しました(グラフ)。このうち、歌舞伎町だけだと、始めて3年で30%減少したとお聞きしました。現在は半分以下になっているとのことです。街がきれいになると、犯罪が減ります。環境を整えると安心安全な街になります。すると人が集まり、経済効果も上がります。新宿東口商店街は、自分たちも掃除をされるようになり、お客が増え売り上げも伸びたそうです。掃除はすべての循環に好影響を与えるのです。
(2)街頭清掃が広まる
東京が始める前に行っていたのが、博多駅(「清風掃々」第36号)、新横浜駅周辺です。後に始めたのが、名古屋、京都、山梨、大阪淀川などです。さらに、ルーマニア、インド、北京、台湾、ニューヨーク、ブラジル、イタリア、ドイツなどにも広がりました。日本の首都東京歌舞伎町での活動は、国内から世界にまで及んだのです。