寺田一清先生に導かれて
イエローハット創業者 鍵山秀三郎
月刊「致知」2021-8月号編集
寺田一清先生は、私が歩むべき道を大きく拓いてくださいました。平成4年2月、寺田先生にお逢いするまでの私は、経済の世界の片隅で、細い道を手探りで歩んでおりました。その私の手をとって導いてくださり、歩む道は光明に照らされ、広く確かな道に変わってまいりました。
平成4年6月、守口市実践人の会にて話をするようにと、寺田先生からご下命を受けました。私は即座にご辞退しました。私は、社員の前でさえまとまった話をしたことがなく、見知らぬ人様に話をするなど、「もってのほか」だと思いました。
その後寺田先生は、何回も私に翻意を促されました。そこで私は、失敗談でよければという条件でお受けしました。多くの失敗にも、正面から向き合ってきた小さな自信が下支えになっていました。
当日、司会の方が「今日の話は二度と聞けない話」と紹介されたので、私は開口一番、「今のご紹介は誤っています。二度と聞きたくない話と訂正させていただきます」と言って始めました。とにかく、冷汗をかきながら勤めさせていただきました。
寺田一清先生は、私の拙語を「凡事徹底」と題して、小冊子を作ってくださいました。私は昔から「凡事徹底」と唱えてきましたが、聞く耳を持ってくださる方は現れませんでした。その言葉が、寺田先生のおかげで、社会に通用するに至りました。「万事手抜かり」の私が、いつの間にか「凡事徹底」の手本でもあるかのように思われるようになり、心中忸怩たる思いをしております。
寺田先生のお導きによる実践人の会をご縁にして、それ以後の私は、住む世界も考えも広げていただくようになりました。
寺田一清先生には、不思議なご縁をいただきました。もし私が寺田先生とのご縁に恵まれていなければ、経済の世界の端で、行く末も定かでない細い道を歩み続けて生涯を閉じることになったと思います。寺田先生に、深く感謝いたします。