東京都 鈴木 砂予子
10年前の当時、私は毎日18時間くらい働いていて、身体はクタクタでした。それでも少しでも人の役に立ちたいという思いがあり、知人のこの一言がきっかけで、その週末の２０１２年２月11日から、私の掃除人生がスタートしました。
今年２月、掃除を始めて10年となり、私は自分の生き方に対する姿勢が大きく変わりました。
始めたころの街の景色
毎週土曜日早朝の１時間、仲間と新宿百人町を掃除しました。
高架下の壁の落書き、道路にへばりついた大量のガム、排水溝の中の大量の盗難品と思われる財布類。街の掃除などしたことがなかった私は、街がこんなに汚れていることに、初めて気づきました。高架下にはたくさんのホームレスの人たちが寝ていました。
始める前は、掃除なら私にもできると思いましたが、少ない睡眠をさらに削るのは辛く、またきつい臭いと虫の多い排水溝の掃除は苦手でした。
さらに、始めて４ヶ月ぐらいはなぜか土曜日の朝だけ毎回雨でした。休まずに掃除すると決めた私たちを、天が試しているかのようでした。
掃除をしてもしても、翌日はまたゴミが散乱しているのをみて、最初は途方に暮れました。そこで一時期、週３日とか毎日行くこともありました。
エリアも歌舞伎町へと範囲を広げました。薄暗い早朝、一人で歌舞伎町に入ると圧倒されたような感じを受けました。明らかに違法ドラッグに侵されている、若い女性の直面し難い光景も目にしました。
植え込みから「脱法ハーブ」の包みがたくさん出てきたり、その土の中のゴミを毎週掘り起こしていて、もうゴミはないと思っていたら、深いところからＣＤラジカセが丸ごと出てきてびっくりしたこともありました。
ある交差点では、食べ残しや嘔吐物、排泄物が悪臭を放っており、そこでは自転車事故をよく目にしました。
変わり始めた街
けれども、そんな目に見えないところまでキレイにすることをくり返しているうちに、そこにゴミがたまらなくなっていることに気づきました。それは、目には見えなくても、そこにあるゴミが新たなゴミを引き寄せていたのだと思います。
そのうち、よく会っていたホームレスさんが一緒に掃除をしてくれるようになりました。私が来る前に、一通り掃除しておいてくれることもありました。
また、ホストクラブの方が排水溝の蓋を開けるのを手伝ってくれたり、近くのマンションの管理人さんが水と電気を貸してくださり、高圧洗浄機で高架下の壁や道路を何日かでキレイにできたこともありました。
このようにして仲間と何年か続けているうちに、街に少しずつ
変化が出てきました。
排水溝に、財布類はほとんど見かけなくなりました。問題の交差点では、自転車の衝突事故はなくなり、２年前に道が新しくなり見通しが良くなって、見違えるようになりました。
落書きだらけだった高架下の壁は、プロの壁画家さんが見事な絵を描き、落書きは無くなりました。そして何よりも、挨拶や掃除をしてくださる地域の方が増えていきました。
そして数人で続けてきたこの掃除は、現在、百人町という街の名前にちなんで毎月第４土曜日は１００人で掃除しようと、たくさんの方が参加してくださるようになりました。
私の変化
10年前の私は、さまざまな問題を抱えていましたが、それらを他人のせいにしたりして、きちんと向き合うことができませんでした。また何かを長く続けることもできませんでした。そして、そんな自分のことを信頼できていませんでした。
掃除という日々の小さな変化が重なって、10年で街が大きく変化した様子を見続けてきました。そのおかげで、どんな困難と思える状況でもコツコツ正しい努力をすれば、必ず良く変えられるという確信が持てるようになり、少しずつでも「自分が信頼できる」ようになりました。
さらに、「心の持ち方」が変わりました。最初のころはゴミを捨てる人を見て腹が立ちました。しかし、掃除を続けるうちにだんだん腹が立たなくなりました。
目の前にゴミがあればそれを拾えばいいだけ、ゴミを捨てやすい環境ならば捨てにくい環境にすればいいだけ、私がそれをやればいいだけ、と淡々と行動できるようになりました。
こうした心境の変化は、自分の人生のさまざまな問題に対する姿勢を大きく変えました。
絵を描くようになりました
掃除を始めてしばらくして鍵山相談役のことを知り、東京掃除に学ぶ会にも参加しました。全国に街やトイレの掃除をする方がこんなに多くいるんだと知って勇気づけられ、人として多くのことを学ばせていただいて、大変感謝しています。
見る人の心が明るくなるようにと、４年前から絵を描くようになり、１年半前からインスタグラムに毎日載せています。「清風掃々」のイラストも頼まれるようになりました。
10年前新宿コマ劇場だった場所も激変しました。(イラスト)
