教育と掃除

出会いは人生の道しるべ(2)

福岡県中学校元校長 福田 隆光

出会いは人生の道しるべ(2)

 福田隆光先生(65)は、豊田詔子さんから鍵山相談役や筑豊掃除に学ぶ会の廣瀬透さんと出会ってトイレ掃除を知り、その効果を確信して学校教育に取り入れます。

「筑豊掃除に学ぶ会第100回
念大会」への挑戦
 2016年、飯塚市立筑穂中学校の校長だったとき、廣瀬さんより打診されました。この校区(1中学校・3小学校)が対象の大きなチャレンジです。しかし、これは千載一遇の機会だと思いました。
 なぜなら、次のような環境が整っていたからです。①2015年度より、地域と一体となって学校運営するコミュニティースクールの仕組みを準備していたこと。②2015年度、廣瀬さんが青少年健全育成会の講演会で、地域関係者(教職員・保護者・市民窓口課・地区自治会長ら)に「心磨きのトイレ掃除」の話をされていたこと。③毎月開催の自治会長会(31区)で、地域行事への生徒参加や学校行事への協力など、協力体制があったこと。④中学校での「心磨きのトイレ掃除」が定着してきたこと。私は、開催の意義を感じ、快諾しました。
 始めは、孤立無援でした。開催に向けて、校区4校と地域の方々と話し合い、課題を解決していきました。参加者200名(学校関係135名、掃除に学ぶ会65名)の17班になりました。3小学校との移動用マイクロバスは地区公民館に、バス運転手は自治会長会に手配いただきました。昼食は、4校のPTAに前日より準備していただくことになりました。3小学校の各校長先生に陣頭指揮をとっていただき、掃除場所などの連絡調整をしていただきました。
 トラブルもありました。昼食メニューを生ものから加熱品に変更することに関して、私の連絡の不行き届きによりPTA関係者に不満が出たのです。私はお詫びし経緯を説明して、理解いただきました。そんな折、廣瀬さんから次のような励ましをいただきました。

筑穂中学校体育館 2016.9.18


ショーペンハウエルの言葉
 「先生の思いが通じ、実施にこぎつけられたことを有難く思います。良いことほど簡単に伝わらないという現実が世の中にはあるようです」。そして、東井義雄先生の言葉「続けると本物になる、本物は続く」が添えられ、さらに鍵山先生の言葉を教えて頂きました。
 「約60年間、私が掃除を続けてこられた理由の一つは、ドイツの哲学者ショーペンハウエルの言葉を知っていたからです。ショーペンハウエルは、物事が成就するには次の三つの段階を経ると書き遺しています。第一段階、嘲笑され笑いものにされる。第二段階、大反対と厳しい抵抗を受ける。第三段階、わかりきったこととして受け入れられる。
 掃除は『いいこと』であると、誰もが知っています。しかし、その『いいこと』を実行し始めると、思わぬ障害や反対に遭遇します。私もこれまで数多く体験してきました。嘲笑され笑いものにされたときは、『まだ、一段階目』と自分を納得させ、大反対と激しい抵抗を受けたときは、『やっと二段階目』と自分を鼓舞することができました。この言葉を知っていたことによって、私は救われました」。私は思わず涙し、気合を入れ直しました。


養の道「掃除道」は
人生の「道しるべ」


 こうして、2016年9月18日、筑穂中学校体育館を会場として、「第100回記念心を磨くトイレ掃除」の開催にこぎつけました。お陰様で、けがや体調不良などの事故もなく終わりました。トイレ掃除を経験された保護者の皆様、地域の皆様、教職員の感想文には、感動とともに大切な気づきがしたためられています。
 この大会は、私の一生の思い出となる宝物となりました。「見ず知らずの方が、手弁当で全国から来ていただき、どうしてここまで親切に指導してくださるのだろう」と、今でも思い出すたびに、恥ずかしながら涙が出るありさまです。
 振り返ると、「地域とともにある学校」を目指して積み重ねてきた一つひとつの試みによって、多くの協力を得られたのだと思います。有り難く、感謝の気持ちでいっぱいです。
 なお、前日の記念講演の講師は、播磨掃除に学ぶ会の木南一志様でした。以後送ってくださる「こころ便り」に活力をいただきました。
 2018年、「筑豊掃除に学ぶ会」は定年退職を迎えた私のために、定例会を勤務校で開いていただきました。皆さまから身に余る心尽くしを頂戴し、感謝の気持ちでいっぱいです。
 最後に、私の考える「心磨きのトイレ掃除」の教育的効果です。
 生徒・教職員・地域との関係がフランクで穏やかなものに変わったと思います。特に、挨拶が活発になりました。校風は批判的なものから支持的なものに変わったように思います。それは、掃除後のアンケート結果にも表われています。
 私は「掃除に学ぶ会」に参加させていただいたお陰で、本物の方たちと出会う機会をいただきました。どの方も威圧感がなく、誰に対しても態度が変わらず、春風をもって相手を敬って接しておられます。その背景には真摯な修練、心磨きの積み重ねがあるのでしょう。
 「君看よ、双眼の色、語らざれば、憂いなきに似たり」。健全な心身を養い、豊かな人格を磨く修養の道「掃除道」は人生の「道しるべ」。
 退職5年、今も心磨きのトイレ掃除に参加しております。

廣瀬透(左) 福田隆光(中)(2011年)