ネパール人の掃除仲間
多賀城掃除に学ぶ会 小畑貞雄
7月7日、多賀城掃除に学ぶ会は多賀城小学校(8回目)のトイレ掃除をしました。参加者26名、うち児童は8名でした。
ネパール人ケシ・チャトラさんは、最近の参加なのですが、掃除にとても熱心で、会の中で重要な存在となっています。
ネパール・ミャグディ地区出身の35歳。大学を経て、仙台の日本語学校・専門学校に留学。(株)及川土地建物に就職し、仙台・多賀城在住の外国人500人の物件管理を任されています。掃除終了後、校長室でチャトラさんに聞きました。(*1)
掃除との出逢いを教えてください
専門学校時代、大雪の日にアパートの雪かきをしていると、及川土地建物の会長が見てビックリされ、アパートの掃除を任されまして、その後雇っていただきました。
2022年の「七夕会」 (*2)で、「仙台を美しくする会」の吉野潤一さんと出逢い、国分町の掃除に参加するようになりました。そこで小畑貞雄さんと出逢いました。
初めて素手でトイレ掃除したとき、小畑さんと同じように、自分も「きれい好きな人間」だと思いました。掃除をすれば、心も幸せになります。
掃除をする人は身分が低いと考える国もあるようですが、ネパールではどうですか?
フェイスブックでは普通は「いいね」が多いのですが、掃除の写真には「いいね」が少ないですね。掃除は、身分の低い人のすることだと考えている可能性があります。
一方で、掃除をしている人も増えつつありますよ。ワールドカップやオリンピックなどで、日本が負けても勝っても、最後にスタジアムのゴミを拾う日本人の姿は本当に素晴らしいですね。ネパール人も身につけたいです。掃除は国や国籍に関係なく、人間だからこそやるべきことと思います。
掃除を始めて、何か変化がありましたか?
日本の街はきれいだと思っていましたが、日本人でもゴミやタバコのポイ捨てをする人がいると知りました。反対に、それを拾って心を磨いている人がいました。
この人たちとの出会いは、私にはとても良いことでした。余談ですが、掃除で集めた落ち葉を持って帰り、畑の肥料にしています。
チャトラさんの夢は何ですか
私は今の職場で、様々な国(ネパール、ベトナム、ブータン、スリランカ、中国、バングラデシュなど)の留学生の、入居から退去までのお世話やトラブル対応をしています。来日したばかりの新入生には、生活サポートをしています。
私は日本に来て、言葉の壁や文化、食べ物などで大変苦労しました。また様々なアルバイトを経験して、時間の大切さ、仕事の大変さ、お金の有り難さなどがよく分かりました。これらの経験を活かして留学生のお世話をしたいです。
たとえば、お部屋をきれいに使う学生はわずかなので、彼らにきれい好きな習慣をつけてもらい、将来母国に帰ってもこれを続けてほしいと思います。そのためには、先ず自分が掃除をして心を磨き続けなければいけませんね。
*1 ネパール
首都はカトマンズ。仏陀の生誕地。多民族・多言語、民族とカーストが複雑に関係。後発開発途上国で、衛生状態は悪く、食糧危機状態。人口2950万人 平均年齢20歳 識字率65%。1日2ドル未満で暮らす層は2200万人で国民の70%。日本には留学生を除いて6万人が出稼ぎで在留。
*2 「七夕会」
単身30年以上ネパールで支援活動をしている垣見一雅氏の帰国報告会。村人たちの要望に何でもOKと支援するうちにOKバジ(おじいちゃん)と呼ばれるようになった。
調査レポート
世の中の変化とトイレ事情
日本を美しくする会では、特にトイレ掃除は、「自己修養」と公共施設の美化による「社会貢献」の観点から、力を入れて活動しています。
世の中の変化とともにトイレ事情も変わってきています。私たちは世の中の変化を理解し、対応しようとしています。
3項目を取り上げます。
(メーカーの資料やホームページの情報などから、編集室まとめ)
*
防汚加工便器(表面ツルツル)の普及
1999年、TOTOが汚れがつきにくく落ちやすい〝うわぐすり加工〟した便器を開発しました。百万分の1~2ミリの大腸菌を付着させない滑らかさです。
他のメーカーも同様の製品を開発したので、以後の便器はすべてこのタイプになりました。
さらに、ウォシュレットの開発や洗浄方法改善による大幅な水量削減の技術も開発されました。
この背景には、人々の衛生意識の向上や掃除の時間短縮、節水の社会的要請がありました。(『清風掃々』49)
「乾式床トイレ」の普及
公立小中学校の屋内トイレが、床に水を流せる「湿式床」から、「乾式床」に大きく変わってきています。
2018年の調査では、11年以上のトイレでは乾式床は21%だったのが、10年以内の新築・改修のトイレでは、84%に増加しています。(図)
TOTO総合研究所の2012年の調査によると、理由は、衛生面やにおいからです。
・衛生面 湿式清掃の床では、乾式清掃の床の約460倍の細菌が検出されている。
・におい 湿式清掃の床のタイルの目地に染みついたアンモニア付着量は、乾式清掃床の170倍であり、トイレの悪臭の原因になっていると考えられる…
とあります。
さらに、湿式ではタイルなどの石材が多かった床が、乾式では多くがフローリングや塩化ビニールなどの柔らかい床材に変わっています。
「環境配慮社会」の世界的潮流
「持続可能な開発目標」SDGsは、2015年国連で採択され、日本でも政府目標となり、学校でも教えられています。
人と環境にやさしい社会つくりは、地球上で暮らす万人の目標であり義務です。
トイレ掃除に関する目標は、
№6「安全な水と衛生」
№14「海洋汚染防止」などです。
私たちが流す水(汚水)は、排水溝から川を経て海に流れ込みます。この汚水に、ゴミや自然界で容易に分解しない物質が含まれていれば、魚などの海洋生物に悪影響を与えます。
私たちが出すゴミや汚水などが、最終的にどういう形になるのかを学んで知れば、人と環境にやさしい行動が生まれると思います。
トイレ掃除の方法について
掃除の方法も、世の中の変化に対応していく必要があります。汚れが落ちるメカニズムを理解するとともに、適切な掃除方法を考えてみます。
なお当会はゆるいNPO団体ですので、考え方を参考にしていただいた上で、各会での自主的な工夫や改善が望まれます。
より詳しくは、日本を美しくする会本部から出ている資料をご覧ください。
汚れが落ちるメカニズム
トイレの汚れは、機械的と化学的方法で落としています。
○機械的 尿石やしつこい汚れは、スクレーパーやサンドメッシュ、研磨剤で落としています。
○化学的
大きく2つの考え方があり、
一つは、「界面活性剤」です。洗剤に含まれる界面活性剤は、油と水を混ざりやすくします。植物原料の自然系と、石油を原料とした石油系があります。
もう一つは、「中和」によるものです。アルカリ性汚れには酸性洗剤を使い、酸性汚れにはアルカリ性洗剤を使って中和し、汚れを落とす原理です。
後述します。
「防汚加工便器」の掃除
硬い鋼の包丁も、たとえ相手が柔らかい食材であっても、長く切っていると刃が摩耗します。便器も同様です。TOTO推奨に「研磨剤入りナイロンたわし、紙やすりなどは陶器表面を傷つけますので、使用しないようにお願いします」とあります。
道具は、スポンジとナイロンタワシ(研磨材なし)主体で磨きます。
ただし、容易に落とせない頑固な尿石や水垢は、局部的にスクレーパーやサンドメッシュ、研磨剤入り洗剤を使います。
「乾式床トイレ」の床の掃除
水が流せないので、雑巾がけや一部カネヨン(研磨材入り洗剤)を使っていました。この場合、時間をかけても床はきれいにならず、カネヨンの「白」が残ったりして、仕上がりがきれいにならず困っていました。
これに対して、新洗剤「スペースショット」(万能環境クリーナー5倍希釈液)は水洗い不要の乾拭きにより、床がきれいになると報告されています。
『清風掃々』50号の松江出雲掃除に学ぶ会の記事を参照ください。内容省略。(写真)
環境-水質汚染防止
油と水を混ざりやすくして汚れを落とす「界面活性剤」。
特に、石油系合成洗剤に含まれる「界面活性剤」は、自然界で分解しにくく、動植物原料の自然系は、自然界で分解しやすいとされます。(*)
「中和」の考え方で、尿石(アルカリ性汚れ)には酸性洗剤を使い、油汚れ(酸性汚れ)にはアルカリ性洗剤を使いますが、この際使う洗剤は、自然系が推奨されます。
酸性の自然系洗剤は、クエン酸、スペースショット(ハルト}。
アルカリ性の自然系洗剤は、重曹、石けん、スペースショットなどがあります。(図)
*石油系か自然系かは、成分表示で見分けます。(トウモロコシ油などは植物性、カタカナの化学物質は石油系など)