特 集

薬物リハビリ施設の清掃活動(2)

ナルコノン代表理事 神野 正啓

我々は薬物リハビリをおこなうかたわら、小中学校で薬物乱用防止教室をおこなっています。友人の子どもが通う学校の校長先生やPTA会長、保健室の先生などを紹介してもらい、突撃で「やらせてください!」とお願いしています。

子どもたちからの質問
 薬物との戦いは、よく水漏れに例えられます。漏れた水を拭く作業がリハビリであれば、水漏れの原因を塞ぐ作業が乱用防止講演です。ナルコノンの目的である、薬物のない社会をつくるうえでは、どちらも不可欠です。
 子どもと接することは好きなので、楽しみながら講演しています。講演後、打ち解けた子どもたちからよく聞かれます。多いのが、「なんで薬物を始めるんですか?」と「なんで薬物を使ってはいけないのですか?」の2つです。
 一つ目のドラッグを始める理由は、本当に些細なことです。講演ではアンケートをします。
 「薬物を使っていいと思いますか?」という問いに、「1回なら問題ない」と答える子どもが少なからずいます。実際にナルコノンに来られる方々では、友だちがやっていたからとか、恋人に勧められてとか、ネットやSNSで興味を持ったからなどと、気軽に始めています。
 子どもたちに正しい知識を伝えると、その後の回答はすべて「絶対に使ってはいけない」に変わります。
 二つ目の、「なぜ薬物を使ってはいけないのか」ですが、「一瞬だけ気持ちよくて、その後は自分にも周りの人にも、たくさんの悪いことが起こるからだよ」と伝えます。
 子どもたちに将来の夢を聞くと、プロスポーツ選手、歌手、学校の先生、看護師さんなどなど、素敵な答えが返ってきますが、これらの夢は薬物を使うと絶たれてしまいます。これは彼らにとっても家族にとっても、所属チームや学校にとっても、社会にとっても、とても大きな損失です。

薬物をどう断るか
 講演の最後に、薬物をどう断るかを伝えます。「僕はやらない」「私はやらない」と、自分の意志で断るんだよと。実際に、断り方のロールプレイングをします。教える前の子どもは、「ちょっとトイレに行ってくる」「今はお金がない」「用事がある」などと、可愛い言い訳をしますが、経験したことがないのでそうなりますよね。
 しかし、断り方を教え、練習させてみると、本当に全員、素直に「僕はやらない」「私はやらない」とはっきり言えるようになります。大切なことは、「知識」と「練習」と「実践」だなといつも感じます。これはナルコノンプログラムで私自身が学んだことであり、これを活かしています。

ナルコノンと掃除
  生徒さんの一日のスケジュールに、掃除があります。この掃除をマストワークと呼んでおり、目的は環境に規律を入れる、すなわち直面する環境をコントロールする能力を得ることです。
 薬物に手を出す理由のひとつに、環境をコントロール出来ず、逆にコントロールされた結果、薬物に逃げることがあります。環境をコントロールする力を得ることは、すなわち、薬物のない人生を手に入れ、自分の望む人生を得る能力にもなります。
 掃除していただくことそのものもありがたいのですが、お休みの日にボランティアでこの施設まで来て、社会を良くすることに喜びを感じる人がいるということを、ナルコノンの生徒が見て言うんです。「何でみんなボランティアで掃除しに来るんですか。こんな人が世の中にいるんですか」と。毎回みんなすごく感動するんです。
 良くない人や、自分のことしか考えていない人たちに囲まれていた経験のある生徒たちもいますから、みんな驚くようです。このことは、リハビリプログラムに大きな影響を与えていると感じます。皆さまの掃除活動は、本当の自分に戻るための「リハビリ」のように感じており、とても感謝しています。

第6回清掃活動 (2024.3.30)

卒業生 喜びの声

Dさん 21歳 男性
薬物でハイになる時代は終わりだ!
 僕が薬物を覚えたのは15歳の時だったけど、家族にはずっと隠してきた。ナルコノンに来る前は、自力で薬物をやめて半年経ってたのに、頭も身体も限界がきていた。ナルコノンに見学に来た日、僕はフラッシュバックで倒れてしまって、親にすべてを告白してプログラムを始めた。
 ある日、デトックス中に薬物をやっていた時の高揚感と興奮が一気に上ってきて、そっから2時間ぐらいハイになった。スタッフはそれを全部受け止めてくれて、ずっと手を握っててくれた。そのハイが通り過ぎて消え去ったとき、自分は危険な状況にあったんだと気付かされて、プログラムに対する確信を得た。
 卒業前に友だちに、自分はもちろんもう薬物を取らないし、みんなにも薬物を取って欲しくないと電話で伝えたら、みんな僕の宣言をすごく喜んでくれた! 僕は友だちにすごく恵まれた…あぁ、俺の中で薬物とる時代は終わったんだって、もう薬物必要ないじゃんて思えた。
 薬物は人が見てないところで取れてしまう。それでもなぜ取ってはいけないのか?…学んだことがそれに生きてる。心の中に監視カメラが入ったような気分。今は自分に対してすごく自信があって、ここで過ごした時間は、自分の人生にとって本当に貴重な時間になった。自分の手で幸せを勝ち取れる…この感情を他のみんなにも味わって欲しいです!


Hさん 37歳 男性
大麻をやめたら人生変わった!
 俺は、主に大麻を使っていました。きっかけは、10代の時に海外留学に行ったことです。帰国した後も他の薬物をやってどんどんおかしくなっていきました。だいぶ凶暴になって、家族で大きな問題になり、妹がナルコノンを見つけてきてプログラムを始めました。
 デトックスには約30日間入ってたんだけど、毒素が「抜けた」って感じた日があった。それに、以前はネガティブな発言ばかりしていたのが、だんだんプラス思考にもなった。他の人を受け入れるのが苦手で、決めつけたり批判ばかりしていた。そんな自分を嫌だと思っていた。でも勉強を進めるうちに、心から人を受け入れられるようになった。これは、自分の中ですごく変化したことのひとつです。
 卒業前、俺が薬物をやってたことなんて何も知らないおばあちゃんに電話したことがあって。その時のおばあちゃんの声が忘れられない。電話切った後、俺涙が止まらなくなっちゃって。その時「俺は絶対薬物使わない」「これ以上人を悲しませたくない」、もう同じ轍は踏まないって思いました。
 これからは、薬物の恐ろしさを伝えていく活動をしたい。やっぱり使ってた人から聞くのが1番だと思うから。1人でも多くの人に、真実を知ってもらいたいと思ってます。

Mさん 55歳 男性
ナルコノンは心の運転教習所でした

 私はアルコール依存の克服のためにナルコノンに来ました。物理的に最低90日間飲まへんかったら、元の状態に戻るんと違うかと思うかもしれませんが、そうではありませんでした。もっと心の奥底に、それをさせてきた自分の弱い心があると気づけたことで、ここに来た最大の目的は達成できたと思います。
 ナルコノンはね、素晴らしい方法を教えてくれます。誰でもできるようなステップになっています。どんだけ自分が気づいて、どんだけ自分が忘れた感覚を取り戻していけるかというところに、ここの真髄があります。
 ナルコノンは、心の運転教習所です。これからの人生で悩むことも落ち込むこともあると思いますが、そういうとき今一度、ここで学んだことを生かして人生を送っていければと思います。自分にはそれができると今は思います。そのための3か月でした。
 自分の人生は誰のものでもないですから。自分が見つめ直して整理をして、自分がしてしまったことに責任を取っていこうと思います。このプログラムは、やればやるほど自分に戻ってきます。ナルコノンに入ろうと思う人がいたら、忘れずに言いたい。焦らず自分が納得して得心するまでやってほしい。明るい人生、忘れていた人生を取り戻すことができます。
(編集 ナルコノンジャパン 清水亜悠子)

掃除の海外展開(3)

海外の人たちが注目する「掃除をベースにした経営」

日本を美しくする会顧問 田中 義人

1997年からこれまで、海外から計122回、2600人以上の人が、東海神栄電子工業(株)(以下、東海神栄)に見学に来られました。何がこれほどまで海外の人たちを引き付けたのか、考えてみます。

中国人オーナーの言葉
 今年7月に来られた中国の会社オーナーが、とても印象に残ったことを言われました。
 「訪問は今回で3度目です」
 「3年前最初に来たときは、驚きの連続で、とっても新鮮でした」
 「2度目は、改めて掃除の素晴らしさに気が付き、トイレ掃除を始めようと決意し、中国に戻りトイレ掃除を始めました」 「社員も掃除を始め、職場の雰囲気ががらりと変わりました。おかげで品質や生産性がよくなり増収増益。その利益を社員に還元して、会社は大きく成長を始めました。田中さんの言われるとおりでした…」
 「今回3回目は、田中さんの話をリーダーたちにも聞かせたくて、彼らを連れて来ました」

上の者の姿勢
 海外では、地位の上の者が現場に降りて一緒に掃除をすることは、元々考えにないことであり、掃除は外部委託か地位の低い者がおこなうことが常識です。経営においても、上からの指示で社員を管理することが常識のようです。その観点から、東海神栄がおこなっているトップ自ら下座に降りて行う「掃除」と、それをベースにした「全員参加の経営」は、海外の人たちには理解できないことのようでした。
 掃除関係者には理解いただけると思いますが、役職や年齢に関係なく、一緒に掃除をすると人間関係がよくなります。東海神栄では、長年毎朝掃除を続けてきて人間関係がよくなり、社員一人ひとりを大切にした風土が生まれました。

「心理的安全性の高い」職場
 2012年、Googleが社内の数百のチームの中で、生産性の高いチームを選んで徹底分析し、共通要因を見つけました。それは、職場の風通しがよく、職場で自分の考えや気持ちを十分に言い合える雰囲気がある職場は「心理的安全性の高い」ということです。これをマスコミが取りあげ、世界中の企業が注目しました。

掃除一筋で来て感じること
 私が33年間掃除をやってきて、感じることです。
 「人間の思考・行動は、環境の影響を受ける。そして、その環境を作るのも人間である。特にトップに立つ者ほど影響は大きい」
 「上に立つ者が現場に降りると、部下との信頼関係を生み、共通の目標に向かって動き出す」
 「上司も部下も、ともに環境をよくする掃除活動をおこなうと、良好な人間関係が育まれる」…
 これらのことが、職場に良い風土をつくってきたと思うのです。

東海神栄がやってきた「掃除をベースにした経営」
 東海神栄は長年「掃除をベースとした経営」を続けてきて、人間関係が向上し、信頼関係が高まり、全社員参加の経営計画づくりへとつながりました。その経営計画に基づき、事業計画、個人課題を作成し、月々の経過報告、決算報告も公表してきました。
 これらのことで、社員も、東海神栄を自分たちの会社、自分たちの職場と感じてきて、安心して働ける会社になってきたと思います。
 掃除にはこれらに併せ、たとえば自己規律向上、整理整頓・標準化推進による効率向上、不良率低下、安全成績向上など多くの効用があります。海外の方々は、これらのことも感じられたのではないかと思います。
 東海神栄がやってきた「掃除をベースにした経営」は、Googleの生産性の高いチームづくりに「心理的安全性」が大きな影響を持つという調査結果に、通じるものがあると思います。世界各国から岐阜の田舎の小さな会社を訪問し、目にして驚かれるのは、そういうことからではないかと思います。